総義歯(総入れ歯)の人工歯排列 〜上顎臼歯部編〜
上顎前歯部を排列したら(本来は下顎前歯部排列が望ましいと思いますが)私は上顎臼歯部の排列に取り掛かります。やはり、咬合平面上に「左右バランスよく」「舌房を確保するように(舌が窮屈感を感じないように)」排列することが大切です。左右のバランスに関しては上顎の正中に対して対称的に並べればいいと思われがちですが注意が必要です。というのも、人は必ずしも対称的な形態というわけではないことと、下顎の位置が器質的にすでに偏位してしまっている患者さんが少なからずいらっしゃるので、上顎を基準として臼歯を排列してしまうとそれに伴って排列することになる下顎の人工歯の位置が明らかな非対称(アンバランス)となってしまうことが多いからです。そこで結果的に下顎の臼歯部の人工歯の排列が左右対照的になるように計算して上顎臼歯部を排列する必要が出てきます。
下顎を基準とする意義は,顎口腔機能の重要な器官は咀嚼にも構音にも嚥下にも舌だと考えており、その舌は下顎に位置し下顎運動を共にしていますので、下顎の人工歯位置の対称性(バランス)が重要だと考えています。
咬合器に付着してある上下の石膏模型から、私は上顎3番(犬歯)の遠心部から下顎臼後三角を結んでできるライン上に排列するように心掛けています(写真緑●から緑○を結ぶライン上)。そうすることで舌房を確保できて下顎排列がバランスの良いものになります。
対合との接触は片側5点で当たるように機能咬頭のみで咬合させるリンガライズドオクルージョンで与えています。特に大臼歯の側方干渉をできるだけ避けたいため、遠心方向(後方)に行けば行くほど頬側傾斜度が強くなる独特な形態になります(写真右上)。
あと第一小臼歯に関しては非機能咬頭頂が咬合平面上に位置し、機能咬頭頂は若干低位に排列しておくのが良いと思います。そうしておかないと下顎人工歯排列の際、(特に2級の患者さんによく見られますが、)犬歯と第一小臼歯に大きな段差ができてしまいうためです。